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ノエルの足跡14 ハーネスで3人が一つに!

街にクリスマスソングが流れます。
「牧人羊を守れるそのよい
たえなる御歌は天より響きぬ。
ノエル、ノエル、ノエル・・・」
街中がノエルの名前を連呼しているようです。ノエルは大通りにあふれる人の波を上手にかわしながらうれしそうに歩いていきます。やがて待ち合わせの場所に決めたバス停に着きました。
今日は福岡から久しぶりにMちゃんがくるのです。Mちゃんは、私が大学生のときに知り合った眼の不自由な友人です。2年ぶりの再会、ノエルにとっては初めての対面でした。彼女も生来はアイメイトを持ちたいと考えているのでノエルに会うのをとても楽しみにしていました。
20分ほど待ったとき、Mちゃんが女の人に連れられてやってきました。どうやら私たちは勘違いをしていたようで、お互い別々の場所で相手を待っていたのです。通りのあっちとこっちでつっ立っている二人を見つけた方が親切に教えてくださったのでした。
さて、いよいよノエルが重大な仕事をするときがきました。今日はいっぺんに二人誘導するのです!
ノエルのハーネスを私が持ち、Mちゃんが私の右腕につかまりました。以前私がまだ白杖使用者だった頃、友達のアイメイトのフィジーちゃんがこんな風にして私をも安全に誘導してくれたのです。ふぃじーちゃんは私のあこがれのアイメイトです。私に盲導犬ユーザーになる決心をさせたのも彼女でした。ノエルと出会ってからずっと「この子もああいうアイメイトになってほしい」と願い続けているのです。
(フィーちゃんにできたのだもの、ノエちゃんにだってできるわ!)
ノエルにしてみれば、とんだ親のみえで迷惑な話かも知れませんが、私は大胆にも職歴3カ月の彼女にその仕事をやらせたのでした。
「ゴー」
ノエルは私を見上げながらゆっくり歩き始めました。
が、ものの5メートルと行かないうちに、「ゴン」と音がして、私はあわててノエルに「ストップ」を命じました。
「いたたぁ」
歩道上に看板が飛び出して、Mちゃんはそれに頭をぶつけたのです。
ノエルの責任は普通自分の右側にいる私を守ることなのですから、これで彼女を責めることはできません。人の頭や体があたるような所に看板を出しているお店の方が明らかに悪いのです。酷な要求と知りながらも私は、その看板をぱんぱんとたたいてノエルの顔をそれに向けさせました。
「イーズィー(ゆっくり)。お願いね。」
このときばかりはノエルも前進にズシーンとハーネスの重みを感じていたことでしょう。慎重に、ゆっくりと、ノエルは進みはじめました。通りには相変わらず人があふれています。しかし、その後家に帰るまで、ノエルは1どもめぐちゃんを痛いめにあわせませんでした。ゆっくり、ゆっくり、人間二人分の前を見ながら歩いていきました。ときどき私の足に鼻がふれます。
「これでいいの?私、うまくやってる?」
と尋ねているのでしょうか?
「グッド!じょうずよ、ノエちゃん。」
鼻がふれるたび、わたしは立ち止まって、彼女の頭を撫でました。
私たちは途中で食事をして、買物をして、無事家にたどりつきました。そして次の日もノエルのおかげで私たちは出かけることができました。今までは、人が遊びにきてもその人が眼の見えるひとでないときは部屋の中でおしゃべりをするばかりでした。確かに久々に会った友達はそれでも楽しいけれど、せっかく宮崎まで来てくれた人に街の様子のほんの一部でも感じてもらえないのは残念なことです。自分の住む街お客様を案内する、そんな当り前のことができないもどかしさを、ノエルは解消してくれたのです。決して普通の人のようにどこへでも、というわけではありませんが、それはこれから私とノエルが切り開いていくべき道の入口を見つけたようなうれしいできごとでした。
家に帰ってハーネスをはずすと、ノエルは、重大任務を終えた解放感と家にお客様が来たうれしさとで大喜びです。こういうときは私がちょっとやそっと叱っても効きはしません(もっともあまり叱ったこともないのですが)。床の上でころげ回り、私に顔をすりつけ、しまいにお客様の膝にまで飛びつこうとするのです。ノエルの大歓迎を受けて、犬好きのMちゃんもにこにこです。
いつもひかえめで物静かな彼女は、騒ぎが一段落すると言いました。
「ノエちゃん、今日はありがとうね。やっぱりアイメイトっていいなぁ。」

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この記事を書いた人

東京在住。犬のいない生活なんて考えられない!犬中心の毎日を送っています。趣味はアジリティー(ドッグスポーツ)と写真。

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