2016/09/09

ノエルの足跡8

「チェアー(椅子へ)」
バスノ中で空席を探すように命令するとノエルはゆっくり歩いて行きます。車内はがらんとしているのに、ずんずん後ろの方へ進んで行くのです。
「チェアッ」
少しきつい調子で言うと、ノエルはあわてたようにすぐ横の席に顔を近づけました。
「グッド・・・」
言いかけてびっくり!そこには人が座っていました。
がら空きのバスノ中で、よりによって人の座ってる所に行くなんて、いくら捜し物が苦手でもふざけてるよ!私は少しいらいらして、他の席を探すように命じました。自分で探してしまってはノエルの教育上よろしくないのです。
なのにノエルは、人のいる席から動こうとしません。
「ノエちゃん!チェアッ!」
この光景を見ていた小学生らしい男の子が言いました。
「盲動犬って以外と言うこときかんとやねぇ!」
ノエルはとにかく捜し物がだめなのです。バス停を探させれば眼鏡屋さんの看板にぺたん!信号の押しボタンを探させれば、さんざん歩き回ったあげくに自動販売機にぺたん!(祖りゃ確かにボタンはあるけれど・・・)
アイメイト協会にいた時もこんなことがありました。
訓練は2週目に入り、私たちは建物の中を自由に歩けるようになっていました
私はお風呂に行こうとしていました。お風呂へ行くには食堂の前を通らなければなりません。ノエルは食堂の前に来ると立ち止まり、ドアノブにぴたっと顔をつけました。主人にドアを教えるしぐさです。いつもうまく行かないのに、こういう時は見事に顔の位置が極まっているのです。命令したことではないので本来は「ノー」なのですが、何しろノエルは捜し物がだめなのですから、事情はどうであれ誉めるようにと指導されていました。
「グッドグッド。でもお風呂行こうね、ストレート(まっすぐ)」
ところがノエルは動きません。丸で顔がドアに張り付いてしまったかのように。
「もっと誉めてよ、こんなにちゃんとできたんだから」とでもいいたげな様子です。
「ノエちゃん上手ねぇ!ぐーっど!グッドだよー!」
誉められてノエルは満足そうに尻尾を振りました。でもまだ私が実は違うことを求めているのに気がつかないのです。(なぁんて思いこみの激しい子なんだろう)
困っていると見かねたSさんが来て助けてくださいました。
さて、南国宮崎もすっかり秋になりました。
ノエルも新しい生活になれて来たようです。そこで私は、ノエルに新しいことを教えて見ようと思いました。
「ノエちゃん、これポストだよ。ポスト・・・ポスト・・・」
ポストを手でたたきながら何度も繰り返します。手紙好きの私にとって、ポストはぜひ覚えてほしいものの一つでした。
「ポスト・・・ポスト・・・」
今度は数歩下がって、リードでひいて行って教えます(ハーネスから手をはなしてリードだけになったときは犬は私を誘導するのではなくて、「つけ」の状態でついて来るのです)。
「ポスト・・・」
次に私はハーネスを持って、数メートル下がった位置から私を誘導するように命じます。ノエルは困ったように私を見上げました。
「ほら、さっき行ったじゃない?あっち、ポスト・・・ゴー」
なんと言ってもノエルは捜し物が苦手なのです。気長にやらなくては。絶対私がいらいらしたりしてはいけないのです。
「ポスト・・・ポスト・・・」
ポストをたたいて教える、数メートル下がる、ハーネスを持って命令する。
3度目に命じた時でした。
ノエルは確信に満ちた足どりで前進、そして・・・静かに、ポストの側面に顔をつけたのです!
「のえちゃん!やったぁ!!グッド、グッドだよ~!!」
あまりのうれしさに私もすっかり興奮してしまいました。めちゃくちゃに頭と言わず背中と言わずノエルを撫でて、ありったけの言葉で誉めちぎりました。
ぶーん、ぶーん。尻尾が揺れます。
ぴょん、ぴょん。そのうち足も踊り始めました。
そ・し・て!!
ぴょ~ーん!(あらっ)
次の瞬間ノエルは、ポスト脇のブロック塀の上に飛び乗っていたのでした。
ノエルの足跡9 盲導犬のイメージとは
ノエルの足跡とは

ヒトミ

著者:ヒトミ

東京在住。犬のいない生活なんて考えられない!犬中心の毎日を送っています。趣味はアジリティー(ドッグスポーツ)と写真。

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