2016/09/09

ノエルの足跡23 珍しい4人組み

 1月3日の夕方になると、部屋でごろごろしておしゃべりばかりという過ごし方にも少し飽きてしまいました。天気がぱっとしないとは言え雨が降りそうな様子ではなかったので、外へ出かけてみることにしました。
 私の住んでいる所から南へ20分ほど歩くと、宮崎市の繁華街たちばなどおりに出ます。バスもよく通るのでわざわざ歩いていく人は少ないのですが、私はお散歩好きのノエルにつきあって、よくそこを歩きます。そのかわり帰りはノエルに我慢してもらってバスで戻って来ます。
 そこで、このおなじみのコースをYさんたちにも歩いてもらって、私の住んでいる辺りの様子を感じてもらうことにしました。ノエルはこの日も元気よく歩
きました。ときどき後からついてくる二人を気にしながら。でも毎日人混みを押し分けながら歩いている都会暮らしのレベッカちゃんと違って、やたらに足が速いのです。私もそのスピードを別段速いとも思わないくらい、彼女のペースに慣れてしまっていました。私もじつはもともと歩くのが速い方らしいのです。まだノエルがいなかった頃、よく腕をかして一緒に歩いてくれた人が「どっちがつれて歩いてんだかわかんないよ」と言っていたものです。
 アイメイト使用者が二組みで歩くときは「タンデム歩行」といって、前の人が曲がり角へ来たら必ず立ち止まって後の人を待ちます。そしてお互いの存在を確認してから再び歩き始めるのです。
 ノエルは歩道のふちに前足をかけて立ち止まりました。
 「コーナー。グッド、グッド」
 そう言いながら待っているのですがYさんがなかなか来ません。30秒ほどもしてからようやく私の右側に、レベッカちゃんが丁度ノエルと同じような
ポーズで立ち止まりました。
 「コーナー。グッド、グッド・・・」
 Yさんのその声は息が切れていました。
 「ノエちゃんたち、速いよー。小走りでも追いつけない。」
 「いや、ごめんごめん。田舎者なもんで・・・」
 この先は人通りが増えてきます。お互いのハーネスの音はとても聴こえません。私はそのことを予想して、自分のバッグにかなり大きな音のする鈴をつけてきたのですが、それだってやくにたたないかも知れません。私はノエルに「イージー(ゆっくり)」と何度も声をかけながら歩いていきました。
 大通りに出るとたちまち人々の視線が注がれます。普段ノエルと二人だけで歩いているときでもあちこちから
 「あっ盲導犬だ!」
とささやく声が聴こえてきます。中には駆け寄って触ったり口笛をふいたりする人などもいてとても困ります。もっと困るのは私に気づかれないようにノエルとアイコンタクトしている人です。なんだかおちつきがないな、と思うと、はるか向こうからノエルと目を合わせて手をふっていたりするのです。相手の存在が分かるときは「仕事中ですのでそっとしておいてください」と言うようにしていますが、こういう場合は私は気を奪われたノエルを叱る以外にどうすることもできません。
宮崎市内で活動している盲導犬が5頭、県内全域でも12頭しかいない土地柄で(全国レベルから観ても決して少なくはないのですが)一変に2頭の犬が並んで歩いているのを見たとなればそれは当然人々をかなり興奮させるでしょう。いろんな声が聴こえてきました。
 「きゃぁ!2匹いるよー。かわい~い!」
 「偉いねぇ!ちゃんとはしっこを並んで歩いてるよ。」
 「前が雌で後ろが雄かな?」
 「あれ、1匹はラブだけど、もう1匹は何?ゴールデンかな?」
 かなり誤解あり。ノエルより大きくて引き締まった体形のレベッカちゃんを見て男の子と思ったのでしょうが、じつはノエルの体がやたらちいさく顔つきもほんわりしているというだけのことで、二人とも紛れもない女の子です。少し茶色がかった直毛のレベッカちゃんに対してやや巻毛混じりで明るい色の毛を持つノエルを見て「ごーるでんかな?」と言ったのでしょうが(それも私に言わせてもらえばそうとう無理があるように感じられるのですが)、どちらもまちがいなくイエローのラブなのです。好きかってなことを言っている人々の間をぬけて進んでいくと、5・6歳ぐらいの男の子が二人叫びながら走っていきました。
 「あ!二ついるー!おんなじやぁ、おんなじやぁ!!」
 (うん、君達は大人よりも正しいぞ。)
 しばらくして、どこかでお茶でも、ということになりました。私が思いついた店へ行く為には大通りを横断しなければなりません。信号が青に替わると、私たちと一緒に大勢の人が流れていきます。私たちはもうお互いがどこにいるのか分からなくなってしまいました。でも大丈夫。タンデム歩行の原則さえ守っていれば、向こうの歩道に上がった所でレベッカちゃんは待っていてくれるに違いありません。ぶつかりそうになる人々を右へ左へとかわして進むノエルを誉めながら私は安心してついていきました。
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ノエルの足跡とは

ヒトミ

著者:ヒトミ

東京在住。犬のいない生活なんて考えられない!犬中心の毎日を送っています。趣味はアジリティー(ドッグスポーツ)と写真。

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