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ノエルの足跡16

順調に仕事ぶりの上達していったノエルが私を悩ませた唯一にしてとても深刻な「ある一つのこと」とは、鼻や口で遊ぶという悪癖でした。誘導技術でもお行儀のことでも、1度叱られた失敗をまた繰り返すようなことはほとんどありませんでしたが、これだけはどうしてもなおりませんでした(実は今でもこの問題を完全に克服してはいません)。一般にラブラドールという犬種事態が何でも食べてしまうような傾向を持っていると聞きます。子犬の頃のいたずらはすさまじいものがあるとか。でもノエルはもう子犬ではありませんでした。好奇心大盛な面は確かにあるようですが、仮にも正式な訓練を受けたアイメイトなのです。適度な好奇心は良いアイメイトになるには不可欠なものです。でもある程度の自己抑制力は身に付けてほしいものです。
ノエルは人とすれ違うとき(特にズボンをはいた人がお好みのようですが)よく近づいてあからさまに臭いを嗅いだりなめたりしました。買物をしているときなど、もし犬嫌いの方にそういうことをしたらたいへんだと、気が気ではありません。飲食店でテーブルの下に大人しく伏せていると思ったら鼻が床に直角に押しつけられています。何か落ちていないかと盛んに捜しているのです。ノエル自身は完全犯罪をたくらんだつもりかも知れませんが、臭いを嗅ぐ時に背中がひくひく動くので、すぐにばれてしまいます。知人の娘さんの運動会を見に行ったときは小学校のグランドの砂や石ころを食べようとしました。
しかしこんなことはまだかわいいもので、時が経つに連れて、ノエルの鼻・口遊びはどんどんエスカレートしていきました。当時ノエルが昼間ステイしていた男子更衣室は、校内の大切な書類をしまっておく保管庫をも兼ねていました。ステイさせているすぐ横の壁に引戸のついた棚があって、ファイルや紐で綴じられた資料がぎっしりと詰め込んであったのです。ある日、授業の合間に様子を見に行ってみると、そこらじゅうに紙屑が散乱していました。何と、ノエルは鼻先と前足をきように使って引戸を開け、中の書類を引きずり出してびりびりに破いてしまったのでした。もちろん私は上司に平謝りです。ノエルはたっぷりとお仕置をされました。体をぶるぶると震わせ、頭を床にすり付けて「ごめんなさい」をするのでもう大丈夫だろうと思ったのに、似たような失態を彼女は限りなく繰り返したのです。男の先生がうっかり置き忘れた紙類やビニール袋はことごとく引き裂かれました。私は初め、一人でいる時間が長いのでストレスが貯るのかと思ったのですが、どうもそればかりでは説明が着きません。1日中一緒に楽しく過ごした休日の夜にクッションを噛み破いて中から綿を引き出したり、輪ゴムや爪楊枝を食べようとしたり、ふすまの紙を剥したりのいたずらは、孤独やストレスとは何の関係もないのです。もはや一瞬たりとも眼が離せません。いたずらをする度ノエルはこっぴどく叱られ、その度震え上がって「ごめんなさい」をしました。ある時は叱られたショックでおしっこを漏らしてしまうほどでした。叱っている私の心も痛みました。
(どうしたらいいんだろう?人にも迷惑がかかるし、私だって安心して過ごせない。叱ってもノエルの体と心に痛みを与えるだけで、全く実りがない。それに、このままではいつか道ばたで悪いものを拾い食いして致命的なことになるかも知れない!)
そう思い始めたらいてもたってもいられなくて、私は電話に向かいました。
「はい、アイメイト協会です。・・・あぁAMIさん。どうですか、調子は?」
「あのー、それがー・・・。犬の躾で一つうまくいかないことがあるんです。指導員の方がお時間のあるときにお話ししたいんですけど・・・」
2・3日後、Tさんという指導員から待っていた電話がありました。
「来週鹿児島へ出超なので、その後そちらへいきます。実際に様子を見てみましょう。」

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この記事を書いた人

東京在住。犬のいない生活なんて考えられない!犬中心の毎日を送っています。趣味はアジリティー(ドッグスポーツ)と写真。

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