2016/09/09

ノエルの足跡18 ドアの外にだれかが・・・

 12月27日土曜日。朝10時頃T さんから電話があったので前日のタオル引きちぎり事件のことを話すと
 「う~ん、そういうことかぁ・・・」と考え込んでいましたが、やがて
 「よし、じゃぁ、今日は学校で訓練してみよう」と言い出しました。
 「あなたとノエルはバスで行ってください。後から車でついていきますから。僕は訓練終わるまでノエルからは存在を悟られないようにしています。」
 Tさんは、アイメイト協会ではノエルの担当指導員ではありませんでしたが、ノエルが彼を、そこらの普通の人とは違うということを敏感に嗅ぎ取っているかも知れません。1日目の仕事ぶりが予想外によかったのは、そのためだろうと言うのです(そのコメントは私には少しばかり侵害でしたが)。
 まず初めにアパート前の路上で服従訓練とステイの練習をしました。なんの問題もありませんでした。物陰に隠れて見ていたTさんが
 「いやぁ、できるんだなぁ!これはかなり時間かかるかな?」と呟きました。
 年末休暇に入った校内は静まり返っていました。警備員のおじさんに犬の訓練で入る旨を伝え、いつものようにノエルを男子更衣室にステイさせ、ドアを閉めて立ち去るふりをしました。と、どうでしょう!宮崎に返ってきて初めの数日を除いて は待機中に鳴いたりしたことのないノエルが「クーン!クーン!」と声をあげて、ばたばたし始めたのです。ぶるぶるをして、床を引っかき、何やらがさがさやっている様子。
 「あれあれ、こんなに簡単に始まるとは思わなかったな。」
 Tさんがおかしそうに言いました。
 (いつもはこうじゃないのに!)
 ノエルは静かな場所に一人で残されることがとても苦手なのかも知れません。
 がらりとドアを開け、1発おみまいして出てきます。しばらく様子をうかがいましたが、今度は大人しくしているので、中へ入って誉めてあげました。そして再び「お仕事行ってくるね」と言って外へ出ます。
 「くぅーん!ぶるぶる。がさがさ。」
 「ノエル!ノーッ!」
 ふい打ちをかけられ、ノエルはあわててうずくまりました。これは油断ならないぞと思ったのか、その後午前中いっぱいは静かにしていました。
 たまたま忘れものをとりにきた先生と昼食を食べに出かけました。こうしてノエルの気持ちを一端リラックスさせておいてもう1度くんれんです。よりによってこういう日に限って、入ったお店で盲導犬入店のことで店員と喧嘩になってしまいました。そんな雰囲気を感じながらはたしてノエルがリラックスできたかどうかは疑問。少なくとも私は訓練でノエルを叱りっぱなしでいくぶん気が滅入っているところへ追い打ちをかけられたのですからたまりません。
 何はともあれお昼をすませ、私たちは学校へ戻りました。
 私が更衣室のドアの外に立ち(幸いその部屋には分厚いカーテンがあるのでノエルから私の姿は見えません)Tさんが私のスリッパをはいて私の足音をまねて立ち去ります。中で妙な音がしました。私はすかさずドアを開けてかけ込みます。
 じつにいいタイミングでだれかがクリーニング屋のビニール袋を忘れていたのでした。一瞬のできごととは思えないほど、ビニールはびりびりに裂かれていました。
 「ノー!」
 Tさんがおいていった来客用スリッパで2・3発ペンペンとたたきます。大きな音がしました。痛みよりも音のほうが効果抜群だったようです。ノエルは「クシュン」といってごめんなさいポーズをしました。
 なんだかまた私の気持ちが沈んできました。
 (お願い、ノエちゃん。よい子になって!もうあなたをひっぱたくのはいやだわ!)
 Tさんは私を職員室に呼び入れて言いました。
 「なかなかいいよ。少しでもばたばたしたら叱ってね。」
 これを聞くと、感情を圧し殺していた心がパチンとはじけたような感じになって、突然涙がこみ上げてきました。Tさんが驚いて言いました。
 「あれ?泣いてるの?困ったなぁ。大丈夫だよ、それくらい優しい気持ちがあれば、ノエルだって分かってくれるよ。ねぇ、泣くなよ。」
 そう言われて幾分気を取り直した私は帰り仕度を始めました。
 「帰りは車(レンタカー)で送りますよ。僕は飛行機までには時間がありますから。」
 「さぁ帰ろう。」
 ドアを開けるとノエルはうれしそうにしっぽをふりました。でも普段とは少し様子が違っていました。回りを見回し、空気の臭いを嗅いでいます。
 (もしかして、ノエちゃん、もうとっくの昔にTさんが来てること気づいてたんじゃないかしら?)
 靴をはいて外へ出ると、いつもならまっすぐ正門へ向かうノエルが、何の躊躇いもなくすーっと右へ曲がり、Tさんの車のドアにぴたりと顔を付けたではありませんか!
 「やっぱりなぁ。彼女にはちゃぁんと分かってたんだよ。」
 Tさんが笑いながら言いました。
ノエルの足跡19 おじいちゃんが帰ってきたっ!
ノエルの足跡とは

ヒトミ

著者:ヒトミ

東京在住。犬のいない生活なんて考えられない!犬中心の毎日を送っています。趣味はアジリティー(ドッグスポーツ)と写真。

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