2016/09/09

ノエルの足跡17 現地訓練

 「どれどれ、被害状況を見せてもらいましょうか。えぇと、タンスにふすま?ハウスのマット?ここに板をはってるのは、壁を壊さないように前予防?」
 「そうです。一生懸命お願いして何軒も不動産屋まわって、やっと捜し当てたアパートですから。壁かじられたら立場ないですよ。」
 「はははは、そうだね。もしかしてAMIさん、ノエルとの生活にすこし疲れてる? 本音を言ってみてよ。」
 「いいえ、疲れてません。困ってるだけです。」
 「ほんとう・?僕に気をつかってるんじゃないの?まぁいいや、じゃぁ外で訓練をしてみよう。」
 (あれあれ?口遊びの強制になぜ歩く訓練が?)
 不思議に思いましたが指導員のなさることですから信じてついていきました。ノエルはうれしそうに歩いていきます。曲がり角で止まり、障害物をかわし、わき目もふらずに。「文科公園」と呼ばれる場所にきました。広場を囲んで図書館、美術館、芸術劇場があります。ノエルは一つのミスもしませんでした。初めての場所なのにちゃんとベンチも捜し当てました。
 「ステイ」
 ベンチのそばにノエルをステイさせ、私とTさんはその場を離れます。臭いが流れないように風向きを確かめながら、ノエルからは見えない場所へ行ってじっと様子をうかがいました。20分経過。ノエルはステイを命じられた所から1歩も動かず、静かに伏せています。彼女のそばへ戻って「よく待ってたね」と頭を撫でるといつものようにしっぽが揺れました。
 「けっこうできるんじゃないの。思ったより訓練は簡単かも知れない。」
 どうやら私がアイメイト協会の事務員にお願いした伝言はTさんに正しく伝わっていなかったようです。確かに私は学校でのステイの際に書類を引きずり出した事件などを例にあげて話したのですが、どうやらノエルが「ステイ」そのものができないのだということになっていたようです。事実、犬が1分たりとも自分を待っていることができないといって相談を持ちかける使用者はとても多いのです。伏せていないで立ち上がる、うろうろ歩き回る、鳴き声を出す、気が散ってばたばたする、などがステイに於ける主なトラブルの形で、今回私がかかえている問題とは少し違っていました。ノエルの場合は(もちろん私が見張ってイラレナイ学校でのステイ中がいちばんトラブル発生確率は高いのですが)ステイのときであろうとなかろうと関係ないのでした。
 「明日はもう一人訓練を依頼されている日とが県北の方にいるので、そちらをすませてから明後日もう1度来てみましょう。」
 そう言ってTさんは帰っていきました。
 翌日は年内最後の出勤日でした。と言っても、生との冬休み中で、職員の中にも休みをとっている人が大勢いましたから、校内はとても静かです。ノエルをいつもの場所にステイさせようとしてふと私は昨日汚れたマットを持って帰ったことを思いだしました。冷たい床ではかわいそうなので、たまたま持っていたタオルを敷いてあげました。
 ところがそんな私の心遣いを裏切って、ノエルは、そのタオルをも引き裂いてしまったのです!私はぼろぼろになったタオルの残害をノエルの鼻先に押し当てて「ノー、ノー」と言いながらぴしっと平手打ちをしました。いつもならこの時点で私の心は暗く沈んでいくのです。「また同じことの繰り返しだ」とため息が出ます。でもこのときは心に余裕がありました。
 (今日はあまり叱らないでおくわ。明日になればまたT さんが来てくれるんだから。証拠物件ができて助かったってものよ。)
 このときの私はやや意地悪な笑いを浮かべていたのかも知れません。ノエルは平手打ちをくらった鼻を「クシュン」と鳴らしました。
なんか私の文章を読んだら
「なんだ!AMIは犬を叱ってばかりいるんだな」と思われる方がいらっしゃるかも知れませんね。
そんなことないんですよ(自己弁護)。
よくできたときは誉めて誉めて誉めまくりますから。
叱る1に対して誉める3ぐらいと教わったんですけど、ノエルは叱られると萎縮することがあるし誉められるとがんばる子なので1対5ぐらいにしてます。
ただ悪癖に対してはビシバシいきます。
絶対に叱らないで誉めるだけでしつけることを最高の躾方だと主張する人もあり、盲導犬協会の中にもその方針をかたくなに守っているところがあるそうです。でもそれには限界があります。
だって、例えば、口で遊ぶのは悪いことだからといって、遊んでいないから誉めるってことは物理的に不可能でしょ?
ってことは実際口遊びをしたときに「それはいけないんだ」と教えるしかないわけで・・・
まさか「いいですか、ワンこのみなさん、お口で遊んではいけませんよ」と話してきかせることもできないしね。
「叱る」っていうのは「教える」ことであって、「怒る」とは質的ににも意味の上でも違うと思うんですね。
そこんとこ勘違いしてる人が多いから「そんなに怒って・・・。犬をいじめちゃだめだよ」なんていわれてしまうんですよねぇ。
なんて、こんなこと、これを読んでくださってるみなさんはよくお分かりと思いますが。
ノエルの足跡18 ドアの外にだれかが・・・
ノエルの足跡とは

ヒトミ

著者:ヒトミ

東京在住。犬のいない生活なんて考えられない!犬中心の毎日を送っています。趣味はアジリティー(ドッグスポーツ)と写真。

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